『冷や汗モノのやんごとなき出来事』
今回はコンサルティングから離れます。公務員だから経験できた忘れられない雅な体験です。
「ご下賜があります」
1989年、昭和天皇崩御に伴い墓陵への車列が国道246号線を赤坂から青山方面へ通られました。
それから暫くしてのこと。宮内庁から秘書室へ電話がありました。(私はこの頃秘書)
『沿道自治体の首長に陛下からご下賜があるので、これこれの日時に宮内庁へ赴くように』
そのお役目を礼儀を知らない青二歳の私が仰せつかることに・・・
当日朝は、緊張しつつ出勤。渾身のビジネスフォーマル姿、区長専用車に乗り宮内庁へ向かいました。
誰も経験のないことゆえ御作法など指導してくれない。
空はピーカンの陛下晴れでも、心は曇天、気もそぞろ。
車内でビビリながら、粗相の無いように、ただそれだけを念じる若手公務員ひとり。
ドキドキの宮内庁
さて、皇居敷地内へ入りました。目指すは低層の歴史建造物的な庁舎です。
屋外階段に赤絨毯というところでまず驚嘆。入館し名乗ると上階へ案内される。
「こちらです。」と指示された暗い空間へ入ります。
薄明かりの中に黒く男性のシルエットが見えました。 ま、ま、まさか、陛下?
明らかにフォーマルな出立ちで、少し高い段の上に直立しておられます。手はお盆を支えておられ、その上には何がしかの箱のようなものあり。
すると声が響きました。「陛下から、御下賜があります。」
私は前へ進むと、何をどう受け取れば良いのか… 戸惑いながら、ひたすらへーコラします。
任務完了
賜るということは、お盆ごと押し戴くのかな? のような疑問が湧きました。
が、思い直し、お盆の上に載せられた箱状の物体に手を伸ばします。
無事に御下賜の品を粗相なく頂戴して、その部屋を辞しました。
全身汗びっしょりです。
1階の事務室に戻り、清酒やらタバコやら写真集やら戴いて帰途につきました。
冷静に考えれば、あの御下賜役の方は宮内庁の職員でしょう。
職場でも、恥ずかしくてそんな話はできず、あれから三十年余。今日初めて披露しました。
公務員だったから経験できた、やんごとなき雅な笑い話です。
口調の代役、大変でしたね。宮廷の作法など、一般の人にはわかりませんよね。私も一昨年5月に皇居で現天皇に拝謁しましたが、あまりにも形式ばっており、冷や汗ものでした。まあ、よい経験でしたが…
実は御下賜の品々には後日談があります。戴いた清酒は『菊正宗』でした。皇室管理田で収穫された無農薬米。特別職も秘書も飲まずに、功績を上げた部門の打ち上げなどの機会に贈ることにして、暫く部屋に置いて管理していたら酸化してお酢になってしまいました。笑えない残念な思い出です。